脱原発をめざす首長会議

7/22-23 北海道視察を行いました


2022年08月21日

7月22日に函館市役所にて工藤壽樹・函館市長を表敬訪問し、函館市が行っている大間原発建設凍結訴訟の背景と経過についてお話を伺いました。7月23日には、原発から出る高レベル放射性廃棄物の文献調査を受け入れている寿都町、神恵内村にて、住民の方との意見交換を行いました。また、その途中の岩内町の高台にて、地元の方から泊原発についての説明を受けました。

工藤壽樹・函館市長と市長室にて

 

 

 

 

 

 

 

寿都町住民の方々との意見交換(寿都町総合文化センターにて)

 

 

 

 

 

 

 

左奥に泊原発が見える(岩内町にて)

 

 

 

 

 

 

 

当会会員の参加者は以下の通りです。
桜井勝延 元・福島県南相馬市長 世話人
三上元 元・静岡県湖西市長 世話人
佐藤和雄 元・東京都小金井市長 事務局長
笹口孝明 元・新潟県巻町長
石井俊雄 元・千葉県長生村長
大藏律子 元・神奈川県平塚市長
田中全 元・高知県四万十市長

 

 

また、今回の視察に参加した三上元・元湖西市長、田中全・元四万十市長がその報告をブログなどに掲載していますので、その内容を一部転載します。

■世話人の三上元・元湖西市長のブログより

我々・脱原発をめざす首長会議の9人は7月22日に函館市役所を訪問して工藤壽樹市長と1時間半の意見交換をすることができた。そこで 大間原発建設の無期限凍結を求める 訴訟の件を聞いた。そのメモ。

1、2011年4月、工藤壽樹市長が誕生した。フクシマ事故直後であった。公約には大間原発の事は書いてないが、函館市から見える近さの大間原発だが、何の説明も函館市にはないことに疑問に思って、訴訟を準備せよ、と市役所の総務部に指示したが、役人はなかなか動いてくれなかったことを思い出す。

2、保守系議員の賛同を得るため、原発全体の議論はしない、大間原発だけを問題にする、と方針を定めた。

3、2013年7月、4つの会派の議員代表と正副議長と市長とで被災地である南相馬市と浪江町を訪問して、住民の生命を守るのは 基礎自治体である と意思統一できた。

4、共産党の議員が、訴訟費用に税金を使いたくない、と言ってきた。それに納得して、寄付を募ったら いきなり数千万円が集まった。今は故郷納税の1つにしており 毎年3,000万円ほど集まる。訴訟費用に充てる残高は1億8,000万円になっている。30年かかっても訴訟費用は十分である。

5、裁判では、入口論争が先ずあった。国は、自治体には原告としての資格がない、と主張してきた。裁判長が 資格あり、と判断してくれたので裁判は始まった。

6、津軽海峡は狭いのに 国際海峡とされているので 外国船が大間原発の至近距離を通過する。外国の軍艦も通る。そのためテロの危険度も高い。だから、自衛隊や右翼も 密かに我々を支援してくれると推定している。

7、大間原発の建設工事の進捗率は37%と言われている。裁判中に工事は再開されていない。判決はなかなかでない、工事も再開されない、1審が終わったら2審、3審と続く、30年かかっても訴訟費用は十分だから、それでもいいじゃないの。と笑顔。

 

■田中全・元四万十市長のブログより

函館市 原発訴訟
少し前になるが、7月20日~26日、北海道に行ってきた。目的は私が所属している脱原発をめざす首長会議による視察で、函館市、寿都町、神恵内村をたずねた。3カ所とも原発をめぐる問題で国とたたかっているところ。函館市は国を相手に大間原発(青森県)建設差し止めを提訴中であり、また寿都町と神恵内村は首長が核のゴミ(高レベル放射能廃棄物)の最終処分場候補地に手を挙げ住民が反発している。

最初に訪ねたのは函館市役所。21日午後2時、工藤壽樹市長はわれわれを歓迎してくれ、市長室で約1時間半、意見交換に応じてくれた。大きな声で、ざっくばらんに話してくれた。かっぷくのいい市長だ。

まず、なぜ函館市が青森県の大間原発建設に反対をしているのか。それは、大間と函館市は津軽海峡を挟んではいるが直線で最短23キロという至近距離だから。大間から函館はフェリーで1時間半だが、青森市に出るには車で3時間かかる。大間の人は買い物も病院も函館に来る。よその人間からみれば、海をはさんでいるため遠いように思うが、実際はお隣さんなのだ。大間原発は国の認可を受け電源開発(Jパワー)が2008年から建設を進めている。2011年の東日本大震災を受け、現在工事は実質休止中だが、いつ再開されるかわからない状態にあるため、函館周辺住民からはずっと反対の声があがっている。

工藤氏が市長に当選したのは2011年4月。東日本大震災(3月11日)の直後ではあったが、特に選挙で脱原発を公約に掲げていたわけではない。しかし、工藤市長は就任してから青森県や、また福島県の原発被災地を訪ね、いろんな人の話を聞き、現地の実情を知る中で、これはヤバイと腹を固めるようになる。特に、南相馬市の桜井市長(当時)の話のインパクトが大きかった。この日の函館訪問も桜井さんによるセッチングによるものだ。国に反対の要望書を出してもまともに対応してくれない。いよいよ提訴しかない。市議会にも諮り全会一致(2人退席)で承認を得た。2014年4月提訴。

函館市が裁判で訴えている大間原発の問題点は大きく次の5点。

1. 毒性が強く危険性が指摘されているMOX(プルトニウムとウランの混合燃料だけを使用)で世界初の原子炉であること。

2. 大間原発の北方海域や西側海域に巨大な活断層がある可能性が高いこと。

3. 大間原発が面している津軽海峡は国際海峡であり、領海が通常の20海里(22キロ)ではなく、3海里(5.5キロ)しかないことから、テロ対策をはじめ安全保障上の大きな問題があること。

4. 既存原発の再稼働とは異なり、電力供給の問題が生じるものではないこと。

5. 大間原発では使用済核燃料は20年分しか保管できなく、その処分の方法や最終処分地などが決まっていないこと。

函館市の主張の法的根拠は「地方公共団体の存立維持権・財産権」。つまり、市の所有する公有資産に対する所有権に基づく物質的妨害予防請求と、市民の安全を守り、生活支援の役割を担っている有機的な組織体である「地方公共団体の存立を維持する権利」である。これに対し、国は、自治体は原告適格が認められている住民には当たらない、つまり裁判の入り口で排除する論法を持ち出してきた。しかし、裁判長(東京地裁)は、これへの判断を留保して、審理に向かうことになった。第一の関門はクリアー。

函館市は原発から30キロ圏内にあるため、いざという時の避難計画を作成することが義務付けられているにもかかわらず、原発設置許可の同意権がない(立地自治体のみ)ことや、設置許可申請の手続きにおいて関与する権限がないことは憲法92条(地方自治)に違反する、ことも主張している。これに対する国の反論はまだない。口頭弁論は続いているが、その間隔は長くなっており、膠着状態。いつ結審になるかわからないそうだ。一方で、大間原発の工事は止まったままである(進捗率37%)。国側も基本になる将来的な原発政策を示せない現状では、本当に大間原発を仕上げる気があるのか、裁判へのヤル気を打ち出せないのだ。

工藤市長はこちらから急ぐことはないと、どっしりかまえている。裁判費用は市民の税金からではなく、募金やふるさと納税でまかなっている。毎年全国から約3千万円入ってくる。現在1億8千万円の残高があるので、何十年でも戦える。こんな大物市長にはぜひとも脱原発をめざす首長会議のメンバーになってほしいところだが、工藤市長の考え方は、函館市はただ一つ大間原発の建設に反対をしているだけであり、反原発とか脱原発とか、原発全体に対する判断や主張はしないというもの。これについては、市議会にも市民にもいろんな考え方の人がいるので、ただ一点、大間原発に反対ということだけで結束を図りたい。なるほど、いい戦い方だと思う。

気になることは一つ、工藤市長は現在3期目(72歳)だということ。裁判は長引きそうで、いずれ1審判決が出るとしても、2審、3審となると、さらに先が見通せない。次の市長選挙は来年4月。市職員の中から最近有力者が出馬表明をしたようだが、工藤氏はまだ態度表明していない。このことを聞くと、いまはコロナ対策等があり、自分のことを言うと市民にしかられると、かわされた。出馬、不出馬、選挙次第によっては、裁判がどうなるのか。仮に市長が代わっても、議会の承認を受けている裁判は続くものと思うのだが、そこが気になるところである。こんな市長はめったにいない。ぜひとも4選出馬して、市政継続を果たしてほしいと思う。みんなでエールを送った。

 

核のゴミはいらない 寿都町 神恵内村

7月23日、函館の翌日は寿都町と神恵内村へ向かった。貸し切りバスに乗ったのは会員6人プラス事務局等2人の計8人。(南相馬市の桜井さんは地元の行事があり帰った)。2町村はともに日本海に面した後志地方にあり、神恵内村は泊原発のある泊村に隣接している。ニセコや小樽も近い。朝8時発。高速で長万部まで1時間。さらに1時間で寿都町に入ると海岸線にずらり並んだ風力発電のプロペラ12基が目に飛び込んできた。寿都町は日本で最初に自治体が風力発電を始めたところであることを知った。

寿都町総合文化センターには地元の2つの反対運動組織(実質一体)、「子どもたちに核のゴミはいらない寿都を!町民の会」と「脱・肌感覚リコールの会」のメンバー約10人が集まってくれていた。お互い自己紹介をしたあと、現在の状況を報告してもらった。寿都町の人口は現在約2700人。かつてはニシン漁で栄えた町も、ここ20年間で半減しているが、周辺自治体も同じ。

ことの発端は片岡春雄町長が2020年8月、突然、核のゴミと言われる、原発の使用済み核燃料から出る「高レベル放射性廃棄物」の最終処分場の選定に関する「文献調査」に応募すると表明したこと。全国に激震が走った。核のゴミは毎日原発から出てくる。国とNUMO(原子力発電環境整備機構)は地層処分と言って、地下深くに埋める場所を探しているが、まだどこにも決まっていない。通常なら、こんな迷惑施設を受け入れるところはないので、国は適地であるかどうかの調査を受け入れるだけで、「文献調査」で20億円、「概要調査」で70億円の交付金を出すことを提示。人口減などで財政に苦しむ地方自治体にとっては垂涎の話である。調査はNUMOが行う。

2007年、最初に手をあげようとしたのが高知県東洋町。しかし、住民が猛反発。町長は住民投票でリコールされた。その後、しばらく動きはなかったが、2年前、寿都町が手をあげたのだ。しかも、町長が自分の「肌感覚」では賛成の町民のほうが多いと思うと言って、住民や議会の同意をえる手続きもしないまま、独断で書類を提出してしまった。

反対住民は署名を集めるのと併せ、議会に「住民投票条例」「寿都町に放射性物質等を持ち込ませない条例」の制定を求めたが、賛成4、反対5(最後は議長判断)で否決をされた。また、2021年10月には町長選挙があり、対立候補を擁立し、行けると手ごたえがあったにもかかわらず、900対1135で敗れた。

反対運動の進め方において、むずかしいのは、普段の生活のしがらみから明確な意思表示をする住民が少ないこと。町長に投票をした住民でも、最終的には核のゴミは来ないものと思っている人が多いこと。つまり、現在はあくまで調査であり、最終的に受け入れるかどうかの判断は別であるから、交付金をもらったあとで、最後は反対をすればいいと思っている。そんな人は「目立った反対はするな。国からカネをもらえなくなるから」と、とんでもないことを言う。片岡町長もあいまいな言い方で住民を勘違いさせていること。

片岡町長は過去5回の選挙は初回を除きて無投票であったが、6回目になるきびしい選挙をくぐりぬける策として、別の形の住民投票条例を通して、文献調査から概要調査に移行する前に、住民投票を実施すると表明。住民を安心させた形となった。しかし、この条例には大きな問題があり、投票率が50%を超えなければ開票をしないという縛りが入っている。つまり、反対票が多そうだとなれば町長、町行政ぐるみで圧力をかけ、投票に行かないようにさせればいいのだ。文献調査はいま東京で行われている。すでに町は国から10億円もらっており、あと10億円もらえる。次の概要調査には来年以降に入るので、それまでには住民投票が行われることになる。

また、調査がすべて終わったあと、町が最終的には受け入れ拒否をすることもできるという建前にはなっている。しかし、国は全国のほかに候補地がないとすれば、あの手この手で圧力をかけてきて、受け入れ拒否ができないようにしてしまうことは眼にみえている。国を甘くみてはいけない。

この間、反対派の人たちは、脱原発を唱える小泉純一郎元首相や、橋本大二郎元高知県知事を迎えて、勉強会や集会を開いてきた。反対のポスター、チラシもたくさんつくり、全戸配布や新聞折込を繰り返している。しかし、何を考えているのかわからない言い方で、タヌキにような片岡町長に振り回され、少々疲れているような感じである。

片岡町長の本音は、町営の風力発電の採算性が落ちて来たので、次は洋上発電に移行するため経産省の歓心を買うために今回応募をしたのではないかという見方もあるという。それと、北海道知事の態度。道には核廃棄物を受け容れないとする条例がある。鈴木知事は寿都町長の説得に来て、反対の意思を伝えている。しかし、道の条例にはあいまいな部分もあるので、知事が最後まで反対を通してくれるのか、最後は国に妥協するのではないか、という不安もぬぐえない。寿都町には、疑心暗鬼が渦巻いていた。

反対運動のみなさんを激励し、記念写真をとったあと、次の神恵内村に向かった。リーダーのお一人吉野寿彦さんがバスに同乗、ガイドをしてもらいながら(昼食も吉野さん経営の牡蠣小屋レストランで)岩内町まで誘導してもらった。岩内では、「後志・原発とエネルギーを考える会」役員で町会議員をされている佐藤英行さんにバトンタッチ、岩内町→泊村→神恵内村へと、誘導してもらった。途中、泊原発を遠望できる、山の中腹にある展望台に連れていってもらった。岩内の町並みから積丹半島まで見通せた。泊原発(北海道電力)の位置関係もわかった。風光明媚の中に異物が一つ混在している。泊原発、寿都、神恵内と、後志地方に集中しているのは偶然ではないだろう。後志が原発に狙われているのだ。

神恵内村は積丹半島の一角。人口約800人。海に岩場が迫り、ほとんど平地がない。漁業中心だが、泊原発関連の雇用や交付金に頼っている部分も大きい。佐藤さんから話を聞いた。

高橋昌幸村長(5期目、すべて無投票)が核のゴミの受け入れに前向きな態度を示したのは2020年9月。寿都町の1か月後であり、またも激震。神恵内村の場合は、村の商工会からの要請という形をとっていた。しかし、今回調査をした限りでは、事前に国、NUMOから村長への働きかけがあり、村長が商工会を動かした、とみられる。泊原発は隣なので、日頃から国との接触が多いように思えた。

10月、村議会は商工会からの請願を採択、村長は文献調査を受け入れることを表明した。体裁としては、住民や議会の要請を受けたという形をとってはいるが、国による周到な根回しのうえに準備されたことがうかがえた。この間、村主催で勉強会と称して、住民説明会が複数回開かれたが、反対の声はあげられない雰囲気だった。一方的な国側の説明に終始した。このような経過から、神恵内村では寿都町のような反対運動はいっさいない。村民みなが沈黙させられている。鈴木北海道知事はここにも反対の意思を伝えに来ているのだが・・・。

問題なのは、本当に神恵内村が最終処分場として適地なのかということ。国が示している全国マップ(適地かどうかの色分け)においても、この村には適地のポイントはわずかしかない。なのに、なぜ国は。寿都町と2つを使って、全国のほかの自治体から手をあげやすくするための「撒き餌」なのか。後志地区町村会の会長は寿都町、副会長は神恵内村なのだそうだ。夕方近くなったので、バスは引き返し、岩内経由で小樽に向かい、メンバーは夕方6時半、小樽駅近くで解散した。

2日間、北の大地で考えたのは、自治体の本来の在り方。脱原発をめざす首長会議は、自治体の首長の使命は住民の命と暮らしを守ることにあるということで一致している。だから、それを脅かす原発には反対をしている。

函館市長は、まさに「地方自治体の存立維持権・財産権」をかけて国と戦っている。地方自治の本来の姿である。しかし、寿都町長と神恵内村長は、憲法で認められている地方自治を放棄し、国へ従属することを志向しているとしか思えない。自ら国の出先機関に身を落とそうとしている。しかも、独断専行、住民の意思を無視して。そんなのは自治体としてのモラルハザードであり、自殺行為である。

私は2007年、町長がリコールされた地元高知県の東洋町の混乱を知っているので、さぞかし北海道の2町村も大きな騒動になっているだろうと思っていた。しかし、来てみるとびっくりするほどに静かであった。寿都町の場合は反対の第1ラウンドが終わり、第2、第3ラウンドにむけてのしばしの静けさともいえるかもしれないが、神恵内村は沈黙の底にあった。

そんな中で、いま2町村とも「文献調査」が粛々とおこなわれている。しかし、東京でおこなわれているので、何も見えない不気味さ。これから国はどんな手を打ってくるのか。カネがすべて。この国の原発政策は、札束で住民自治を奪い、黙らせていくという毒薬である。

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